憂い視線のその先に

様々な恋愛事情

　睦月が事務所に戻ると千愛希はパソコン画面を眺めていた。それから睦月の気配に気付いて振り返ると「ねぇ、曽根さん。これ凄いですよ……このままいけば1週間もあれば完成するかもしれません」と言った。
　千愛希の表情は尊敬そのものだった。

　さすがだ……やっぱり凄いな、睦月は……。ようやく追い付いたと思ってたけど、私なんてまだまだだ……。

　千愛希は目の前の光景が信じられないといったように瞳を揺らした。
　睦月の言ったオートシステムにより、AIが勝手にプログラミングを打ち込んでいた。それどころか、睦月が作った仕様書がデータ共有され、それも自動変換して千愛希のゲームエンジンに対応できるようにAIが動いていた。

「うん。千愛希のゲームエンジンを見てたら、この方法を思い付いてさ。この方法でいけば残業しなくてもいける。ただ、AIの認識は100%じゃないから、確認はこっちでしなきゃだ。システムとアプリ自体はどんどん作れたとして、確認作業に時間がかかりそうだな」

「え、えぇ……。でも、手作業で行っても確認作業は必須です。できたものから順にテストを行っていけば十分間に合いますよね？　確か、今月下旬に配信予定だって」

「あぁ。このまま明日から全員で確認作業とテストを行っていけば早ければ中旬には配信できるか……な」

「凄いですよ！　これをたった2時間で改良させたんですか？」

「千愛希のゲームエンジンの土台があったからね。俺はほんの少し手を加えたに過ぎない」

　千愛希の尊敬の眼差しに照れ臭そうに頬を指先で掻く睦月。寝ている隙に体を触られていたことなど知るよしもない千愛希は、この人からはまだまだ学べることがある、と共に仕事ができる喜びを噛み締めていた。