視線の先

12/24
前へ
/390ページ
次へ
 ただでさえ結婚や出産のある女性は、それだけで「これだから女は」なんて言われやすいのだ。男性が優位に立つ会社で本当に自分はやっていけるんだろうかと不安が募った。  そんなところに、「自分のやりたいことをやれていることを幸せなんだと気付いて欲しい。大変な職業だから不幸だとか、給料が安いからやりがいがないだとかそんなのはその人の固定概念だと思うんです。  私は、介護の仕事が楽だと思ったことは一度もありません。毎日すごく大変だし、亡くなる方もいるので涙して嫌になる日だってあります。認知症があれば、病気のせいで暴力行為のある方もいる。でも、だからってやりがいがないのとは違います。  大変な中にも楽しいことはある。それを見つけられるかどうかは自分次第だと思うんです。私はこの仕事に就けて幸せですよ」なんて言葉を耳にしたら、千愛希はまどかを応援せずにはいられなかった。  当時の彼女は眩しくて、一気に虜になった。その美しい顔も生き様も全てが憧れで、一まどかのようになりたいと、そう生きたいと思ったのだ。  それからというもの、まどかの出演するテレビ番組を全て録画し、見逃しがあればネットを使ってダウンロードした。  時には違法なアップロードもあったが、得意の技術でかき集めた。  まどかの髪型を真似、メイクを真似、他の女子達と一緒になって一まどかの話題に花を咲かせた。  まどかは本人が言ったように、介護の仕事が好きだった。容姿や一生懸命介護の仕事をしている心の優しい女性を売りにして芸能界で活躍するようなタイプではなかった。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10252人が本棚に入れています
本棚に追加