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真っ直ぐ切りそろえられた前髪の下には、ハッキリとした美人顔。まどかと同じくピンク系のアイカラーを使うことが多かったが、オレンジ系をベースとし、唇はマットな暗めの赤茶色に染まっていた。
本来の千愛希の美しさが全面に現れているようで、律はなんだかソワソワと落ち着かない気持ちになった。
まるで別人だったからだ。あ、まどかさんに似てるかも。そんなふうに時々思うこともあったはずなのに、そんな面影は微塵もない。律の知らない女性が目の前にいるようで、変な気分だった。
「美容院行ったの。ここ最近行けてなかったから。……変?」
律があまりに驚いた顔をしたものだから、千愛希は眉を下げてそう尋ねた。
「ううん。似合ってるよ。ただ、雰囲気違い過ぎて驚いただけ。女性は凄いね、髪型と化粧で凄く変わる」
パチパチと目を瞬かせる律に、千愛希はおかしそうにくすっと笑い、「そうだね。まぁ、雰囲気変えてみるのもいいかなって思って」と言った。
よかった……。似合うよって言ってくれた。
内心不安もあった千愛希だったが、律が優しく微笑んでくれたものだから、思い切ってみてよかったと思えた。
「そうやってオシャレの幅を広げていくわけね、女性は」
頷いて、すっかり冷めてしまっているコーヒーに口をつけた律。そうは言いつつ、やはり落ち着かない気持ちは残る。
前回会ってから2週間も経っている。あの時だってバッタリ仕事中に会っただけで大した会話もしなかった。
律の家でテレビゲームをしたのだって1ヶ月も前の話だ。
その間にすっかり変わってしまった千愛希。話し方も笑顔も千愛希に違いないはずなのに、なぜか少し遠い存在に見えた。加えて、店員や客達が千愛希の美しさに見とれているのがわかり、あまりいい気がしなかった。
以前よりも更に綺麗になった気がして、それが手放しで喜んであげられないことにも僅かな疑問を抱いた。
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