視線の先

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 だから県内であれだけ有名で、全国でも名が売れるチャンスだったのにも関わらず「本職に影響が出るのは困るんです」と言ってあっさり1年ほどで芸能界を引退してしまった。  それ故、彼女は全国ネットで有名になることはなく、今でも過去の県民スター止まり。それでもその引き際が、本当に介護の仕事に誇りを持っていたんだと県民の胸を熱くさせた。まどかが引退して10年経った今でも千愛希のようにまどかのことを忘れられないファンが大勢いた。  無事に就職した後、既にまどかは引退していたが、千愛希はめげずに努力し続けた。大手の広告代理店へ就職できたのも、あの時勇気をくれたまどかのおかげだと信じて疑わなかった。  悩みがあったり、不安が募るといつでもまどかの笑顔を思い出し、昔の映像を見ては心を癒すのだった。それほどに千愛希は、まどかの熱狂的なファンだった。  だから、偶然律といる時にこの夫婦に出会った時、千愛希は感激し、泣いて喜んだ。この時、初めて千愛希がまどかのファンだったことを知った律は、今まで見たことのない異常なほどの熱に驚愕したものだ。  それは熱狂という名の通り、狂気に近かった。まどかの夫である周も、実をいえば大学時代からのまどかのファンだった。千愛希と同じように熱狂し、芸能界から姿を消しても尚、10年間追いかけ続けた。  その一途な片想いを知っていた律が、仕事の関係で知り得たまどかの情報を元に、2人が恋人になるべく協力したのだ。
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