様々な恋愛事情

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 千愛希の元にコーヒーが運ばれてくると、姿勢正しく背筋を伸ばした千愛希が綺麗な所作でコーヒーカップを手に取った。  営業の経験もあるからか、社長秘書として様々な経営者と関わることも多いからか千愛希の動きはとても繊細で美しかった。  普段、まどかを見てはテンションを上げて興奮状態で話しかける姿とも違い、「静岡の田舎で生まれたから初めて街中に行った時は驚いたよ」なんて笑うが田舎臭さもない。  いかにも仕事ができるキャリアウーマンの印象で、千愛希の性格を知らなければ高嶺の花だと男達が手を出せないほど気位が高い女性に見えた。  律は客観的にそんな千愛希を見つめた。まどかに対して異常な情熱を燃やす千愛希を初めて見た時、最初の印象と違い過ぎて少し距離を置こうとも考えた律。  けれど今は、そんな千愛希のちょっと変わった部分が懐かしく思えた。変なところさえなければいいヤツなのに。変なところさえなければ、アプリケーション界隈では群を抜いているのに。そう思ったこともあったはずなのに、自分と身内だけが知っているその姿を、他人が知るはずのない砕けた姿をもっと見せてほしいと思った。 「……律? どうかした?」  なぜかボーッとした様子の律に、千愛希は少し身を乗り出して顔色を伺った。  不意に距離が縮まったことに、律の胸の奥が熱くなった。 「いや……なんでもない。今回はどんな仕事だったのかなって思って」 「ああ、それがね」  誤魔化すように話を振った律に、困ったような表情を浮かべた千愛希がキョロキョロと辺りを気にしながら「律だから言うけどさ、ごちゃごちゃしてて、危うく刑事事件に発展するところだったの」と言った。
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