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専門用語をたくさん並べて話す千愛希と律の会話を聞いたところで詳細など他の客にはわからぬところだが、アプリ制作会社で犯罪が起きていたことくらいは察しがつく。
情報漏洩するわけにはいかないと、千愛希は周りを気にしながら簡潔に経緯を話して聞かせた。
ようやく睦月と共に仕事をする流れになった原因を知ることができ、律は少しだけ胸のつかえが取れた気がした。けれど、顧問弁護士が既に介入しており、律でも力になれたであろう案件に携われないことに蟠りが残る。
「それで……結局示談に?」
「うん。作業が進まなかったのも、情報漏洩に繋がったのもその彼のせいなんだけど……なんだか、凄く残念。腕が悪いわけじゃなかったんだけどね……もうちょっと食らいついて頑張ってくれたら、きっといい方向に転がって強い味方になってくれたと思うんだけど」
「……そう。でも犯罪は犯罪だよ。いい人に見えても腕がよくても、法に触れたらダメだ」
「うん。まあ……それを言ったら私もだけど」
千愛希自身もハッキングを仕返し、ウイルスまで送り付けている手前、強くは出られないと身を縮めた。そんな千愛希の姿が珍しくしおらしく見えて、律はふふっとおかしそうに笑みをこぼした。
律の崩した表情を見るのは千愛希も久しぶりのことで、とくんっと脈が1つ大きく跳ねた。
「でもまぁ、解決したんだ?」
「うん。向こうの会社に出向いてシステムとアプリを修復させてきたの。だからもう私の役目は終わり。後は前に会った曽根さんがなんとかするって言ってたから平気かな」
千愛希の口から曽根さんという人名が飛び出て、律はぴくりと眉を動かした。
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