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千愛希の言い方はまるで「曽根さんなら大丈夫」と完全に信用しているようだった。今回の一件は、睦月がウイルスに気付けなかったことと、部下の指導がなっていなかったせいでもあるのに、千愛希がそこに対して責任を問わないのも律には解せなかった。
仮にも副社長であり、経営者なのであればこのトラブルの責任を取るのは睦月のはずなのに、千愛希がこうも振り回されていることが気に入らなかったのだ。
けれど律は、真っ向から睦月を否定したりはしない。千愛希にとって元婚約者であれば、律が否定することを不快に思うかもしれないと考えた。
「そういえばあの曽根さんって人、妹さんいたりする?」
律は仕事とは全く関係のない話に切り替えたようにみせた。
「妹? あぁ、うん。あ! たしか曽根さんち妹さんもモデルさんだったよ。奏ちゃんと一緒だね」
千愛希はさほど気にならない様子で笑顔で答えた。
「曽根紗奈さん?」
「……え? あ、うん。……なんで?」
睦月とは初対面だったはずなのに、と困惑した表情を見せた千愛希。律は平然とした顔で「俺も千愛希だから言うけど、おそらくその妹さん、まどかさんの以前交際していた人の婚約者だよ」と続けた。
「まどかさん? え? なんで、まどかさん?」
「周とまどかさんに出会ったばかりの頃、周の前にまどかさんと付き合っていた人の話、周としてたの覚えてる?」
「あぁ、うん。覚えてるよ。まどかさんが酷い目に遭って周くんが救っただなんて話を聞いたけど……」
「うん。まどかさんと付き合っていながら他に婚約者がいたんだ。その相手が曽根紗奈」
「えぇ!?」
千愛希は目をまん丸くさせ、大きく声を上げたあと、自分の声に驚いて慌てて口を押さえながら周りを見渡した。
驚いた様子の千愛希に、律の感情はグルグルと渦巻く。普段の律なら決してこんな個人情報を話したりしない。今までだってまどかの情報を知りたがる千愛希に、結城の話をしたことがなかったのだから。
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