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千愛希は声をひそめて「でも妹さん、たしかまだ独身だったと思うよ」と言った。
「うん。俺がなんでそこまで把握してるかって話になるんだけど、その彼が刑事事件を起こして、ちょっと仕事で関わったんだ。まどかさんの弁護人としては父が担当したんだけど」
「そう……なんだ。じゃあ、結婚も……」
「当然白紙になったよ。それでまどかさんは曽根さんの存在を知ってすごく傷付いたんだ」
「そうだったんだ……」
律の瞳が冷たく見えた。まるで怒りを孕んでいるようだった。千愛希は軽く目を伏せ、「まどかさんも大変だったんだね」と加えた。
律は睦月のことをよく思ってないのね……。そんな繋がりがあったなんて驚いたけど、記憶力のいい律のことだから、その関係性にもすぐ気付いちゃったのか。
そっか……まどかさんのことを傷付けた人が睦月の妹さんだから……。律はまどかさんのことが大事だもんね。
そりゃ私だってまどかさんを傷付けた人なんて許せないけど……でも悪いのは、まどかさんがいながら他の女性と婚約したその男なんじゃないかな……。
千愛希はそう考えながらも、胸の奥はズキズキと痛んだ。律に会えて嬉しかった。仕事が忙しくて会えなかった分、たくさん話をしたかったし、今回の愚痴も聞いてほしかったし、律の笑顔をもっと見たかった。
けれど、こんな時でも律はまどかの名前を口に出す。
一緒にいるのは私なのにな……。結局見た目を変えてもまだ律は私にまどかさんを重ねて見てるのか……。
千愛希の胸は抉られるように痛んだ。2人の待ち合わせ場所であるはずのお気に入りのカフェ。2人でいるはずなのに、なぜかまどかが同席しているような気分になった。
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