10319人が本棚に入れています
本棚に追加
律はばつが悪そうにコーヒーを一口飲むと、千愛希に聞こえない程度に大きく息を吸ってから「それもそうだね。周も幸せそうだしね」と笑顔を作った。
……まずい。冷静さを失うところだった。どうしたんだろ、俺。千愛希がまどかさんの幸せを1番に考えるなんて当たり前のことなのに。計算を間違えた……。
少しでも千愛希の嫌悪があの男にいけばいいと思うなんて……どうかしてる。
律は、自らの行いに嫌悪した。民事でも刑事でも法律関係ならもっと頼ってくれたらいいのに、仕事に関してはいつも事後報告。
別れたはずの男と共に仕事をし、尻拭いまでしてやった千愛希。事務所は別だと聞いたが、新たなゲームエンジンの存在もあり今後一切関わらないと断言できるわけでもない。
そう考えると律はなぜか焦燥感に駆られた。
千愛希は、笑顔を見せた律にほっと息をつき「私の話はもういいとして、律はどうだったの? プライベート、色々あったって」と話を切り替えた。
千愛希はもう、まどかの話をしたくなかった。まどかのことは好きだ。けれど、律のことが好きかもしれない、そう思った時から好きに変わるまではとても早く、その律がまどかのことを好きだと知ったら以前ほどまどかに会いたいとも思えなくなった。
律と付き合っていなければ違ったかもしれない。あの時抱かれていなければそんな感情もわかなかったかもしれない。
今千愛希が知りたいのは、まどかのことよりも律のこと。変な空気が漂ってしまった2人の環境を変えたかった。
律も話題を変えてくれたことに正直安堵した。自分でも無意識に睦月を陥れようとした自分を見て見ぬふりしたかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!