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「ああ、俺の方はね大したことじゃないんだけど色々重なってさ」
「うん」
「良い報告と悪い報告があるんだけど」
「悪い方から聞こうか」
なんとなくいつものペースに戻りつつある。律は、曽根紗奈の話なんかする予定なかったからな……と思いながら「蓮と叶衣が別れてさ」と言った。
婚約破棄の流れで浮気の話に進むのは非常に気まずい。本当なら千愛希の仕事の話を聞いたら箸休め程度に話そうと思っていただけだったのに、と律は複雑そうな顔をした。
「え? 結婚間近って言ってなかった?」
千愛希は目を丸くさせた。こうやって2人でいる時に蓮から電話がかかってくることが何度かあったのだ。
蓮とも叶衣とも千愛希は面識がないが、2人のことは電話がきっかけでよく律から話を聞いていた。
だから数ヶ月前に律と会った時には、対面で離れててもわかる程大きな声量で「なぁ、指輪って1人で買いに行くのか?」なんて言葉がスマートフォンから漏れて聞こえたほど。
「知らないよ。叶衣次第じゃない?」
そうめんどくさそうにしながらも、不機嫌そうではなかった。だから千愛希も律は2人を祝福しているのだと思っていたのだ。
「なぁに、結婚するの?」
電話が切れたあと、そう尋ねれば「そうみたいね」と口元を緩めた律。
「律の周りはもう皆結婚してるの?」
「んー……大学の頃の東京にいる友達は早かったかな。でも、こっちにいる仲良いのはまだちらほら」
「そう。まぁ、まだ32歳だから男性なら焦る歳でもないのか」
「いや、俺の周りは士業が多いから、今も昔の名残で結婚して家庭をもって1人前みたいなところがあるんだよね。だから独立考えてるなら、早めに結婚をする友人も多いよ」
「あぁ、そっかそっか。こんなご時世でもまだそんな名残があるんだ」
そんな会話をしたのも記憶に新しいはず。なのになぜ急に別れてしまったのか。そう考えて千愛希は、あー……私だって結婚間近で破談になったんだっけ。仕事関係かな? 上手くいかない時はいかないもんか、と思い直した。
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