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「なんでそんなに好きなのに浮気なんてするのかな……」
千愛希はコーヒーカップを見つめながらそう呟いた。恋愛感情がなかった頃の自分は、誰かと付き合っていながら他の男性に好意を抱くことなんてもちろんなかったし、ほぼ相手の片想いに後ろめたさもあってその人以外と体だけの関係に走ることもなかった。
律のことが好きだと気付いた後も、もちろん律のことで頭がいっぱいで他の男性を入れる心の隙間なんて全くない。あの睦月と接していても、もう今更結婚しておけばよかったとも思わなかった。
それなのになぜ、他の人達は浮気することができるのか千愛希には不思議でならない。不可解な行動でしかなかった。
「わからないよ。俺にも浮気する心理なんてわかんない。不貞行為も離婚調停も関わってみても俺には理解できないことの方が多い。いつも俺は客観的に良い、悪いで判断するしかないから」
「……うん」
千愛希はそう頷いたが、そう言いながら律はまどかさんのことが好きなのに私と付き合ってるじゃないと心の中で呟いた。
千愛希にしてみれば、律の行動だって不可解だ。
直接まどかに触れたわけでもないし、きっと想いを伝えたわけでもない。周からまどかを奪うつもりもないだろうし、現在の関係を変えるつもりもないだろうと千愛希は思う。
それは浮気じゃない。律の言う浮気をする人の気持ちがわからない、は嘘じゃない。
けれど、気持ちが彼女ではなく別の人にあることはなんて言うんだろう……千愛希はそんなふうにまた暗い気持ちになった。
2人きりで会わなきゃ、触れなきゃ浮気じゃない。そう言葉にはできても、気持ちが自分ではなく他所に向いていることはそれ以上に悲しい気がした。
触れていても気持ちがなければ、もしくはその気持ちが自分に向けられていたら少しは受け止められるかもしれない。
けれど、律は……私のことは好きじゃないのにまどかさんのことは好き。でも、付き合ってるのは私……。
それは……律の中では『理解できる』に入るの?
千愛希は大きく瞳を揺らした。
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