様々な恋愛事情

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「うん。結果がどうなっても、俺はどっちの味方でもいれたらって思うよ……」  律は、千愛希の目を見て言った。千愛希は優しく微笑んだが、律は同じように微笑み返すことはできなかった。  愛してくれた人を好きになろうと努力することが幸せだという理屈がわかるのは、自分がそうだったから?  そう口に出してしまいそうで、慌てて口を噤んだからだ。  「結婚って色々あるんだよね」そう言った時、曽根さんの顔を思い出したよね? そんな嫌味まで浮かんできた。  今一緒にいるのは俺なのに……話題にしてるのは蓮と叶衣と璃空なのに。そこに千愛希の結婚なんて関係ない。それなのに……自分は結婚が上手くいかないことも理解できるだなんて言い方をされてるみたいだ。  千愛希の記憶にはずっとあの男がいる。婚約破棄を思い出す度、千愛希は曽根さんの何を思い出すの?  こうやって2人で会って、千愛希のマンションで過ごしたことも……あの男は千愛希の家に泊まったこともあるのかな……あるよな。あのベッドで……  そこまで考えた時、千愛希を抱いた時の記憶がぶわっと一気に蘇った。シーツをきつく握りしめて、歯を食いしばる姿。眉間に皺を寄せて甘い、甘い声を上げる姿。律の名前を何度も呼んで、律よりも先に何度も絶頂を迎えた。  あんな姿をあの男は何度見たんだろう……。自分に恋愛感情がないなどとは知らず、千愛希を求めて何度も何度も抱いたんだろう。  千愛希の長い黒髪は、シャツから覗く白い肌を綺麗に映えさせていた。そこに触れ、唇を奪い、乱れた千愛希の姿。その記憶が律と同じように睦月の記憶の中にもある。  それも律とは違い、数え切れないほどに。  律は、千愛希の中からも睦月の中からも2人の存在を消してしまいたいと思った。
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