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「相手が男性でないにしろ、友達と旅行したりもきっとないし、詩の中ではずっと響は高校生のままで止まってるから」
「学生とはいえ、響くんももう大人だもんね」
「うん。だからそろそろ詩だって自分のことだけ考えて生きればいいんだけど、とにかく響が社会人になることをゴールにして生きてきたから、とりあえずそこを達成しないと無理かもね」
「そうなってくると、多分詩ちゃんはまた次のゴールを作っちゃうと思うよ。そこまで肩の力を抜けずに突っ走ってきたなら、立ち止まることが怖くなると思うから……目標がなくなると急に怖くなるんじゃないかな」
千愛希にはその気持ちがよくわかった。高校で律に勝てず挫折を味わい、そこからがむしゃらに頑張った。仕事で成功した時、ようやく全てが報われた気がした。
ただ、そこで満足して手を抜いたら、その空間に取り残されてしまうようで急に怖くなった。天才クリエイターと言われたら、それ以上のものを生み出さなければいけないというプレッシャーに押し潰されそうになった。
ゴールが見えなくなると途端に自分には価値のない人間のように思えて、新たなゴールを決めてまた突き進む。
睦月と婚約した時も、仕事量を減らすと言いながら、仕事をしなくなったらもうこの会社にはいらないと言われるんじゃないかと怖くなった。
だからといって仕事を辞めて専業主婦になるだなんて、社会との隔たりができるようで全く違う空間に閉じ込められてしまうようで怖かった。やりがいだけではない。千愛希の仕事を制限できない理由はそんなところにもあったのだ。
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