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「蓮には絶対言うつもりないけどさ」
「うん」
「正直、蓮と叶衣が付き合う前、蓮が叶衣のことを好きになる前に手を出すことも考えた」
まさかそんな踏み込んだことまで話してくれるとは思わず、律は大きく息を飲んだ。
「でも、蓮だから譲った。親友だから」
「うん……」
「あれが蓮じゃなかったら、俺は多分誰にも譲る気はなかった。叶衣が蓮と七海に裏切られて傷付いてるのを知ってたから、今回友達でいたいって言われたのも受け入れたけど、そうじゃなかったら多分納得しなかったと思う」
「まぁ、状況が違えばそうだろうね」
「律さ……」
「うん」
「手放したくないなら、意地でも繋ぎ止めておきなよ」
「……え?」
律は驚いて体を起こし、前屈みで璃空の声に集中した。
「俺、恵里奈の時には追いかけなかった。原因も探ったし、弁解もしたし、やり直そうと努力もした」
恵里奈とは、璃空が叶衣と付き合う前に付き合っていた女性。婚約破棄に至ったのは、彼女が璃空と叶衣の浮気を疑ったためだった。実際は、既に璃空の妹の七海と友達だった叶衣が桐生家と家族旅行に出かけていただけなのだが、璃空が叶衣を彼女として連れていったと思い込んだのだ。
過去に男性に裏切られた経験のある恵里奈は、璃空のことを信用できずに別れることになった。璃空の家族には結婚の挨拶を済ませていたにもかかわらず、破談となったのだ。
「信用されてないって気付いて、もういいやって思った。恵里奈を責めたこともあったけど、結局は自分の中で答えを出した」
「うん」
「でも、叶衣だったら違う。もし相手が叶衣だったら信用してくれてなくても、俺は諦めないと思う。他に好きな男がいたとしても、その相手が蓮や律じゃない以上、諦めなかったと思う」
「……璃空」
「友達でいいなんて所詮綺麗事だよ。自分は友達のつもりでも、相手のことを女として見てる男は他にもいる」
「……うん」
「その男がもし本気でアプローチしてきたら、友達は友達だから」
「うん」
「奪われるのも時間の問題だ」
璃空の言葉に、ドックンと心臓が跳ねた。それと同時に思い出す、曽根睦月の顔。
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