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ビル内の一室で千愛希は難しい顔をしていた。
「どうだ? 今回のは気に入った?」
大崎が後ろから千愛希の手中にあるA4用紙の綴りを覗き込んだ。そこにずらっと書かれているシナリオ。デザイナーがキャラクターシートを持ってきたのと、プランナーがシナリオを持ってきたのだ。
どちらも新作の乙女ゲームである。
「うーん……なんか違うんですよね……」
「今回もダメか」
「いいとこいってると思うんですよ。でもなんかありきたりというか……数年前の私ならすぐにOK出したと思いますけど、なんせ今は乙女ゲームの数も半端じゃないですからね。ありきたりなシナリオじゃ、無料には飛びついても課金まではしてくれませんよ」
「あー……だな」
大崎と千愛希はうーんと首を捻り、「あの人達には申し訳ないけど、今回は形にできそうにありませんね」と千愛希が言った。
「わかった。俺から伝えておく」
「いえ、社長自らなんてダメです。私が受け取ったんですから、私が出向きますよ」
「いや、いいよ。それより、睦月のところに行ってきてくれないか?」
「曽根さんのところに? また何か?」
「いや、頼まれてた資料ができあがったから届けてほしいだけなんだけど。お使い行けるの土浦くらいだから」
千愛希は人を暇人みたいに……と思いながら「承知致しました」とだけ言った。
先月、無事にアプリゲームを配信し、問題ないことを確認すると、千愛希の役目は終了した。鍋田の件ではまだ弁護士が動いているようだが、そちらの対応も睦月が行っているため千愛希は大崎の元へ帰ってきていた。
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