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千愛希が不在の間、社長秘書代理がついたのだが、仕事量が膨大でたった3週間ほど離れていただけなのに、更に膨れ上がっていた。
「どうしたらこうなるんですか」
「あー……やっぱり土浦じゃなきゃダメだな。来て3日で根を上げてたよ。二度と秘書代理なんてやりませんって泣かれてさ」
「そんな仕事量を私に押し付けていることをお忘れなく」
「厳しいねぇ。なんだかんだ言ってやれちゃうからね、きみは」
「キャパオーバーです」
千愛希が顔をしかめれば、大崎は肩を揺らして笑っていた。淡々と仕事をこなし、あれから1ヶ月以上経ってようやく仕事量も減りつつあった。
睦月と会うのは1ヶ月振り。配信後、忙しなくしていた睦月を置いて千愛希はさっさと事務所を後にしたのだ。
預かった封筒を持って、歩いて5分圏内の事務所に向かった。千愛希の顔を見た受付の女性がすぐに睦月を呼んだ。
「土浦、わざわざ悪かったな」
「いえ。中身、確認していただいてもよろしいですか」
そう言った千愛希から封筒を受け取る睦月。周りの目があるからか、2人は事務的に会話を続けた。
「大丈夫、全部ある。拓也によろしく言っといてよ」
「はい」
大崎の名前が出てきて、千愛希はふっと頬を緩めた。その美しい微笑みに、睦月は言葉を失った。
先月の最後に会った日、千愛希はすっかり容姿を変えて出勤してきた。日曜日で他の社員はおらず、不具合がないか2人で作業を行った。
その前日までは、睦月のよく知る普段の千愛希だったはずなのに、可愛らしさは息を潜めただただ恐ろしい程の色気を放っていた。
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