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「髪、変えたんだ」
睦月はそう言うのが精一杯だった。髪だけじゃない。顔の印象も服装も全てが睦月の知る千愛希と違った。まるで別人になってしまった千愛希になんて声をかけたらいいのかわからなかった。
ただ、その変化に触れないわけにもいかずとりあえず口を開いた次第だ。
「えぇ、そうなんです。昨日は久しぶりにお休みいただいたので」
千愛希は微笑を浮かべてそう言ったが、睦月は俺といる時にだって休みはあったのに、そんなあからさまな変化はなかっただろと心の中で呟いた。
睦月は、まどかの熱狂的なファンで服装やメイクを真似していることを知っていた。付き合っていた時も、散々まどかの魅力について語っていたのだ。
「たまには髪切ってみたら? ショートも似合うと思うな」
そう言った睦月に、「ダメ! せっかくここまで伸ばしたんだから! 髪切ったらまどかさんじゃなくなっちゃう!」なんて言っていたほど。
まどかと似た容姿を保つことでどこか安心しているようにも見えた。他人が何を言っても自分のスタイルを変えなかった千愛希。それがたった1日会わなかっただけでこうもガラリと変わってしまうのには一体どんな理由があるのかと気になった。
「ここにエラーが出てますね」
すぐに作業に入った千愛希が仕事の話に切り替えたことで、イメージチェンジの会話は打ち切られた。睦月はもっと似合うだとか、綺麗だとか色んな言葉を思い浮かべたが、今更なんて言えばいいかわからずそのまま仕事に入った。
その日、千愛希は約束があるからと言って慌ただしく帰って行った。睦月は今回のお礼と久しぶりに会ったこともあり共に食事でもと考えていたが、大きな不具合がないのを確認できると千愛希の姿を見送るしかなかった。
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