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時間をかけてメイクをし、『可愛い』を演出させていた。けれど千愛希はそれにもほとほと疲れてしまった。
時短もできる薄化粧は、千愛希のはっきりとした顔のパーツを映えさせるには十分だった。それどころか、本来の美しい形が顕となり無理に造られた顔よりも自然な美しさが浮き出て見えた。
「そういえば今度、拓也達と食事会があるんだけど、また運転手だろ?」
「食事会……ですか。聞いてませんね」
「5人で集まることになっててさ。仕事というより会食かねての同窓会みたいなもんだけど」
睦月がそう言って肩をすくめた。千愛希は、時々行われる経営者5人の食事会を思い出す。とても経営者達が集まっているとは思えないほど、自由でユニークな食事会だ。
「いつも同窓会みたいなもんじゃないですか」
普段のピシッとした威厳はすっかり角を隠し、子供のようにはしゃぐものだから千愛希も一緒になって笑ってしまうことの方が多い。
睦月と付き合っていた時には、4人とも妹のように千愛希を可愛がってくれた。仕事から離れれば、同級生だけのその空間に千愛希を置いてくれたのだ。
別れて以来、何となく気まずくて何度か顔を出したがこの頃は大崎の送迎だけして食事会自体は外で時間を潰して終わるのを待った。
そんな以前は楽しかった食事会を思い出し、千愛希はおかしそうにクスクスと笑った。
そこにいた社員達は、もの珍しそうに目を見開いた。千愛希は、大崎達同様いつもピシッとしていてあまり笑わないイメージだった。けれど、別れたはずの睦月の前で愛らしい笑顔を見せたのだ。周りが驚かないはずはない。
当然、睦月も。
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