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「じゃあ、少しだけ顔を出させてもらいます。久しぶりの食事会をお邪魔したら悪いですから」
千愛希はそっと微笑んだ。睦月は何が邪魔なものか、と思いながら大崎とのやり取りを思い出していた。
千愛希が本社に戻った翌日、睦月は大崎に電話をかけた。
「トラブルになって悪かったな」
「いや、こっちこそ全部任せてすまない。弁護士はもう動いてるんだろ?」
「ああ。心配ない。すぐに片付くはずだ」
「それはよかった。土浦を派遣したかいがあったな」
大崎は一連の経緯を聞いてそう言った。
「本当に助かったよ。ハッキングもウイルスも俺には見つけられなかったからな。やっぱり千愛希はハッカーの方が向いてる」
「そう言うなよ。うちには貴重な人材なんだから」
「間違いない。千愛希はその……嫌がってなかったか? こっちに来ること」
「まぁ、最初こそは気まずそうにしてたけどな。今じゃケロッとしてるよ。もともと仕事に私情を挟むようなヤツじゃない」
「そうだな。俺も今回、改めて千愛希の力の偉大さを痛感したよ」
「はは、ありゃ天才だからな」
「なぁ拓也。俺、やっぱり千愛希と別れなきゃよかったって思ってさ……」
電話越しに声のトーンが下がった。大崎は、やっぱり睦月のところに行かせるんじゃなかったか、と目頭を押さえた。
「睦月。もう過ぎたことだろ。今、土浦には新しい男がいる」
「知ってる。この前、千愛希といる時に偶然会ったよ」
「……会ったのか?」
大崎は驚いて椅子に座っていた腰を浮かせた。律の妹が奏だと知った時には心底驚いた。現在の妻と意気投合したのだって、奏の話題がきっかけだった。
いつか一緒に仕事ができたら。そう思ってたところに「あ、この子。友人の妹です」なんて千愛希が言ったのだ。
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