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大崎の律を庇う言い様に、睦月はむっと顔をしかめた。仮にも友人の元婚約者だったのに、と面白くない。
「俺は……」
「睦月。もう終わったことだって言っただろ。土浦はお前の彼女以前に俺の大事な部下だ。彼女のことは俺だってよくわかってる。土浦の幸せを思うなら」
「幸せそうじゃないから言ってんだろ? 常識のあるいいヤツがなんで千愛希にあんな顔させるんだよ!」
大きな声を上げた睦月に、大崎は眉を寄せて耳からスマートフォンを離す。あんな顔をさせたもなにも、いきなり婚約破棄して悲しませたのはお前だろ、という言葉がついそこまでやってきた。
「つまり、まだ好きってわけだ?」
「それは……」
「土浦だって情に流されて我を失うような性格じゃない。自分の意思で彼といるって決めたなら、応援してあげたらどうなんだよ」
「そりゃ俺だって千愛希が今幸せなら応援してあげたいとは思うけど……」
口ごもる睦月の様子に、大崎は諦め切れていないことを確信した。ようやく睦月も千愛希のことを諦めかけていたのに、今回仕方なく派遣させたことで消えかけていた灯火が再び燃え上がってしまったのかと頭を抱えた。
とはいえ、だったら誰を派遣させたらよかったんだ? 土浦じゃなきゃ今回の件だってもっと大事になっていたはずだ、と自分の判断が間違っていなかったことを再確認する。
しかしそれと同時に、睦月の側に今も土浦がいてくれたら……そう何度も思ったことを思い出した。
睦月の余裕がなくなったのも、跳ねるアプリが制作できなくなったのも千愛希と別れてからだ、と考えると千愛希の存在は睦月の仕事の士気を高めることにも繋がっていたことに気付く。
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