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「そりゃ、友達としては睦月の恋路も応援してやりたいって思うけどさ……」
「そう思うなら……」
「……土浦が今の彼との関係に鬱々としてるなら寄り添ってやるのも悪くはないとは思うが、無理に奪うような真似はダメだ」
「わ、わかってるよ! 俺だって千愛希の気持ちを尊重してやりたいし」
「そう思うならなんであの時、無理にでも入籍しなかったんだよ」
大崎は呆れたように息をついた。あの時、千愛希の仕事量に拘らず入籍してから考えたってよかったはずだ。仕事が、親が、子供がなんて言っていたが、結局はなに一つ手に入らないまま、気持ちだけ残ったわけだ。
「あの時は……千愛希も仕事の方が大事だって言ってたし」
「でもショック受けてたぞ。暫く仕事だって上の空だった」
「……え?」
「土浦はお前と結婚したかったんだろうな。お前にだけは仕事のことを理解して欲しかったんだと思うよ」
睦月は大崎の言葉に狼狽した。千愛希は睦月の別れ話に「わかった」と頷いた。自分と千愛希にはどこか温度差があるように感じていたし、結婚したかったのは自分だけなのかもな、などと思ったりもした。今となっては、自分が千愛希を必要としている限り、縋りたい気持ちが優位にある。けれど、あの時の睦月は千愛希の方から自分を求めて欲しいと思ったのだ。
今になってあの時、千愛希もちゃんと自分との結婚について考えていたのだと知らされれば、余計にもう一度手に入れたくなった。
「あの時とは……状況が違う。離れてみて、やっぱり俺には千愛希しかいないって思った」
睦月はポツリとそう呟いた。覇気のない声色に、大崎はぐっと喉が締め付けられるような気持ちになった。
「……だったら、どうするつもりだよ」
「もう一度、仕事から離れたところで話がしたい」
「……なら誘ってみたら? 断られたら諦めろよ」
「い、いきなり2人は警戒されるだろ!?」
「じゃぁ、どうしろって言うんだよ。俺は協力しないからな」
「……新年会するとか。6人で」
「ばかやろ……。完全に巻き込むつもりじゃねぇか」
「誘ってこなきゃ諦める」
「……勝手にしろ。俺は知らないからな。今度悲しませたら、俺でも怒るぞ」
大崎は、額に手を当てて盛大なため息をついた。
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