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スマートフォンの奥で、叶衣が大袈裟とも思えるため息をついた。
「蓮ちゃんね、長い髪のストレートが好きなの。大人っぽくて上品で好きだってよく言ってた。七海は巻き髪が好きだったはずなのに、蓮ちゃんと浮気してた頃からストパーかけたんだよね」
「え?」
「私なんてさ、蓮ちゃんの好み知っててもバッサリ髪切っちゃったでしょ? 髪長い方が好きだったって散々言われたけどさ……まさか七海が蓮ちゃん好みになるためにストレートにしたなんて思わないじゃん」
「……うん」
「パーマかけちゃったらさ、どんなにコテで巻いても跡つきにくいんだよ。最悪取れちゃうしさ。それなのにストレートにするなんて、なんでかなって疑問に思えばもっと早く気付けたかもしれないなって今になって思うし」
叶衣の言葉に動揺を隠せない律は、下唇を軽く噛んで「女性はその……好きな男性のために髪型を変えるの?」と尋ねた。
「ん? んー、そうばっかじゃないけど、そういうこともあるよ。私みたいに蓮ちゃんの言葉無視して切っちゃったりする人もいるけど、見た目から相手の理想に近付こうとする人は多いかもね」
「見た目? なんで見た目……」
「りっちゃんは生まれつき美人さんだからさ、着飾らなくても女の子はうようよ寄ってくるかもしれないけどさ」
叶衣の前置きに、律はぐっと眉間に皺を寄せた。
「自分に自信のない女の子は、少しでも自分を見てほしくて、自分に興味をもってほしくて相手のタイプを調べたりするもんなんだって。それが乙女心ってヤツだよ。まぁ、七海の場合は自分に自信満々だけどさ」
「それってさ、服装とか……化粧とかも関係あったりする?」
「そりゃ、するでしょ。メイク1つで顔変わるんだから。好きな人にちょっとでも可愛く見られたいって思うんじゃないかな?」
叶衣は乙女心を語るが、本人はそれに倣うことはないだろうなと思う一方で、律の頭に浮かぶのは先々週も会った千愛希の姿。千愛希の印象が変わってから2回会ったが、律は千愛希の姿を見る度、ソワソワと落ち着かない気持ちになった。
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