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これ以上叶衣と話していたら、どんどん失言を繰り返しそうで「もう俺のことはいいから。入籍日とか式の日取りが決まったらまた連絡するって昨日璃空にも言われてるから」と律から切り上げた。
軽くやり取りをしてから電話を切る。律は、はあぁぁぁぁと大きく息を吐くと、そのままデスクに突っ伏した。頭を包むように腕を立てて、右の掌で後頭部に触れた。
「あー……。そういうことか……俺、千愛希のこと好きなんじゃん」
口に出したら確信に変わった。残された事務所で1人、真っ赤な顔をした律。誰に見られているわけでもないのに、顔を隠すように両腕を敷いて顔を伏せた。
耳まで紅潮させた律の頭の中には笑顔の千愛希でいっぱいだった。
最後に会ったのが2週間前。先週は律の仕事が立て込んでいて会えなかった。今週はまだ予定を聞いていない。いつもなら千愛希の方から『日曜日どう?』って連絡がくるはずなのにそれもない。
先週断ったから、今週も忙しいと思って遠慮しているんだろう。そう思ったら、急に愛しく思えた。
「……会いたいかも」
ポツリと呟く。
--ブー、ブー、ブー
律の思考を遮るかのように鳴り響くバイブレーションに、律は飛び上がって体を起こした。
スマートフォンを手に取ると【河野 響】の文字が映し出された。
律は、顔をしかめて「あー……」と気のない声を上げると「もしもし?」と電話に出た。思いあたる節がありすぎた。
「りっちゃん! 姉ちゃんに何言ったの!?」
第一声にそれだ。
「何って、なんかあったの?」
「姉ちゃん、俺が試験受かったら家出るって言ってたんだよ!」
「うん、言ってた」
「言ってたじゃないよ! 昨日姉ちゃんと会ったよね!?」
「会ったよ」
「なんでそんな平然としてんの!? 姉ちゃん泣きそうな顔してたよ!」
泣いてたよ、とはさすがに言えない律は「2人のことは、向こうの友人に頼んであるから大丈夫だよ。俺達が関与するのもここまで。あとは2人でなんとかするしかないよ」と言った。
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