変化の理由

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 昨日、璃空から電話がくる2時間前、律は市内の料亭を訪れていた。先月、千愛希にも話した河野詩と待ち合わせをしていたのだ。  弟離れができない詩と、恋愛にトラウマを抱えていていつ不安定な状況に陥るかわからない相手の男。2人がちゃんと向き合えるよう、現実を突き付けるために律は詩と会った。  悪役を買って出て、相手の男を(なじ)った。詩はボロボロと泣きながら帰っていったのだ。  詩が恋愛を楽しんでくれることは嬉しい。けれど、大切な人を亡くしている2人にはどうしても乗り越えなければならない障害があり、他の人間よりも強い分、脆いところもあった。  お互いに少し足りない信頼関係。それは基盤が緩くて危うかった。律が間に入ることで、2人を精神的に成長させようという試みだったのだ。  既に相手の男はPTSDを発症しているようで、精神的に危険な状態だ。奏の交際相手であり、詩の交際相手である岩崎昴の同期、古河朋樹にフォローを依頼してある。  彼は精神科医であり、精神的なフォローは専門に任せることにした。  2人はそろそろ喧嘩でもして別れる頃だろうと思っていた律。そこを乗り越えて、信頼関係を深められれば、互いに今縛られている過去から解放されることができる。そうすれば、今度こそ自由に恋愛ができると律は思ったのだ。 「俺だって詩を泣かせるなんて本意じゃなかったよ。でも、頼ってきたのは響じゃん」 「そうだけど……」  納得がいかないと声に出ているようだった。最初は人の恋愛なんて放っておけといった律に、どうしても2人が上手くいくように手伝ってほしいと懇願したのは響の方だ。  仕方なく悪役を買って出たのに、依頼者から文句を言われる筋合いはない、と律も顔をしかめた。
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