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周の存在が頭に過ぎった律。それと同時にまどかの顔も思い出す。まどかが実家に来ていれば、千愛希は喜んで家にくるかもしれない。そう思った。
まどかが一緒にいれば、自室に周がやってくるなんて不謹慎なことをさせないだろうし、2人だけの空間を邪魔されることもないかもしれない。
暫くまどかに会っていない千愛希は、嬉しそうに笑ってくれるかもしれない。そう思ったら、急にその笑顔が見たくなった。
まどかさんをダシに使う日がまたこようとは……と目を細める律。妹の奏に対しては、大好きなまどかを囮に使うことは何度もあったが、千愛希に対してはなかった。なんなら、まどかに異常な愛情をみせる千愛希をまどかに会わせまいと阻止したこともあったくらいだ。
あんなに好きだったはずなんだけどなぁ……。
まどかの顔を思い出しては、現在利用しようとしている自分に苦笑した。ただ、罪悪感は微塵もない。確実に千愛希を呼び出せるためなら、周と一緒に実家にくるくらいなんてことないだろうとすら思った。
意を決して律は千愛希に電話をかけた。こんなに緊張するのも初めてのような気がした。
「もしもし、律?」
数回呼び出し音が鳴って、千愛希が電話に出た。
「……お疲れ様」
心なしか声が震えた。千愛希の声を聞いたら、なんとも言えない感情が体中に広がった。叶衣にどんな声かと聞かれ、思い出したら聞きたくなった。
鼓膜を震わす心地良い声。
「お疲れ様。律は仕事終わったの?」
名前を呼ばれると、胸がキュッと音を立てる。
「ん……もうちょっと」
「あれ? まだ残業だ」
「うん」
「私もなの。今、ちょうど休憩してたところ」
「忙しいんだね」
「まぁね。律もでしょ?」
「うん……でももう今日で終わりだし」
平日最後の本日は、どこも残業だらけだろう。律が1人になる前だって、ほとんどの人間が残業していった。
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