変化の理由

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「そうね。もう1週間終わっちゃったなって思うと早いね」 「そうだね。あのさ……日曜日、まどかさん来るんだけど千愛希も来る?」 「……え?」  律は、嬉しそうに声を弾ませる千愛希を想像していた。けれど、電話の向こうの千愛希は声を揺らした。その違和感に気付かない律ではない。 「千愛希?」 「え!? あ、うん! ごめん! 今、声が途切れて聞こえちゃって……」  千愛希は必死に誤魔化した。ブラックコーヒーの缶を握りしめていた千愛希は、軽く下唇を噛んだ。  急に鳴った電話は、仕事ではなく律だった。連絡したくてもできずにいたものだから、心がはしゃいでいるのがわかった。  逸る気持ちで電話に出れば、愛しい律の声。少し疲れているようにも思えたが、そんな中でも電話をくれたことが嬉しかった。  しかし、さらっと出されたまどかの名前。律の口からその名前を聞けば、当然穏やかではいられない。それどころか、なぜ私を呼ぶのかと勘ぐってしまう。  せっかくまどかさんと会えるチャンスなのに私を呼ぶの? 周くんが来るから? 私に周くんの相手をさせて、2人が一緒にいる時間を減らそうとしているとか……。  嫌な想像が頭の中を巡った。 「千愛希……暫くまどかさんに会ってないでしょ? 会いたいかなって思って……」  言葉を続けた律。今までそんなこと言ってくれたことなかったじゃない。なんて言葉が脳裏に浮かぶ。 「ああ、そうね! 久しぶりに会いたいかな!」 「じゃあ、日曜日に」 「ごめん、律。日曜日は……用事があるの」  千愛希は唇を震わせてそう言った。ダメだった。まどかに会いたい気持ちは当然ある。今も変わらず大好きで憧れの人。ただ、律のまどかに向ける視線をこれ以上見たくはなかった。
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