視線の先

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 千愛希はその日、胸の内を全て大崎に打ち明けた。本当はシステムエンジニアになりたかったが、新人故に営業に回され、ホームページの制作も本意ではなかったこと、結果として大崎に迷惑をかけてしまったことを涙ながらに語った。  大崎は、そんな千愛希を責めることはしなかった。それどころか本意ではなかったとまで言ったにもかかわらず、それならうちの会社で働かないかとまで言ったのだった。  大崎自身も経営に手間取っていた。男性ばかり5人で立ち上げた会社なだけに、男性目線のゲーム開発、製作には長けていても女性目線のゲームを作ることができないからだ。  加えて、自らがプレイヤーとして製作を行う傍ら、スケジュール管理も厳しくなってきたところだった。  大手とはいえ、新人に支払うくらいの給料でよければ実績のあるエンジニアや秘書を雇うよりも安くつく。加えて千愛希はどちらの仕事にも向いていそうだった。  大崎には秘書とエンジニアの両方が安価で手に入り、千愛希は給料は変わらずエンジニアの仕事もアプリケーション製作も好きなようにできる。双方の利点は合致したのだ。 「ほ、本当に私なんかでいいんでしょうか……」 「私なんかなんて言わなくていい。俺の友人は皆それなりのスキルを持った優秀な人材だよ。土浦さんも学べることがたくさんあると思う」  大崎の言葉は魅力的だった。千愛希はさっさと退職願いを出して、大崎の元にいったのだった。  退社する時には冷たい視線を向けられた。たかだか3年目のひよっこが、簡単な仕事もまともにできず逃げるようにして辞めていったといい笑い者になったのだ。  しかし、千愛希にとってはこれが好転した。  大崎が言ったように、彼の友人は皆優秀だった。加えて女性の千愛希を軽視したりはしなかった。4つ年上の男性陣がトップということもあり、同年代で作り上げられた組織は現代の流行りに敏感で、適応能力にも長けていた。  更に意見交換も円滑に進み、年功序列の理不尽なパワハラも存在しない。個々に得意分野を伸ばし、時にアドバイスし合いながら売り上げは伸びていった。  千愛希は大崎の元で社長秘書としてスケジュール管理をする傍ら、製作技術を学んだ。
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