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せっかく容姿を変えたのに、こんな自分よりもまどかさんを愛しそうに見つめていたら……もう耐えられないかもしれない。
そう思ったら、咄嗟に嘘をついた。先週会えなかったから、律に会いたかった。いつもの喫茶店でまた楽しくおしゃべりしたかった。そう思う千愛希だったが、律に会える嬉しさよりもまどかに会う気まずさの方が勝った。
律は、言葉を遮るようにして誘いを断った千愛希に、目を丸くさせた。瞳を揺らして暫し考える。
なんで……? まどかさんがいるなら行くって言うと思ったのに。どこだろう。断った理由は……。俺に会いたくないってこと? いや、でも先週会おうって誘ってきたのは千愛希だし……あれから気に障るようなことを言ったつもりもない。
だとしたら、本当に日曜日がダメなだけ……?
「じゃあ……明日は? 昼間だけとか、夜だけとか」
「明日? あぁ、うん……いいけど」
千愛希がそう言ったことで、律の肩の力が一気に抜けた。
よかった……これで断られたらどうしようかと思った。
律の心臓はうるさいくらいに激しく脈打っていた。ドッドッドッと打ち付ける振動が全身に伝わった。
一方、千愛希もまどかさんがいないなら……と安堵の息を漏らした。まどかが来るのが日曜日なら、土曜日に行くのはかまわないか、と思えたのだ。同時に律に会えるのはとてつもなく嬉しかった。
「じゃあ、明日だね……。おばあちゃんもさ、千愛希に会いたがってて。ほら、敬老の日のプレゼントも貰っちゃったから」
律ははっと思い出したようにそう言った。去年の秋、いつもの喫茶店で「これおばあちゃんに渡して。今日は敬老の日でしょ?」と言って千愛希がプレゼントを渡したのだ。
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