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守屋家で食事をすれば、「この前の食事のお礼に」と律の両親にもお礼の品を用意する千愛希。律も悩んだ敬老の日の贈り物を、千愛希までもが用意していたことに驚いた。
たまに家にくれば、縁側で祖母と一緒に日向ぼっこをしている千愛希。数ヶ月前に野良猫が居着いてしまい、千愛希が可愛いと言って撫でていた光景を思い出す。
「まどかちゃんは、おうちはこの辺?」
認知症の祖母が名前を間違えようとも「車で20分くらいですかね」と笑顔で答える千愛希。高齢者にも優しい千愛希の姿に、律が自然と笑みをこぼすこともあった。
千愛希が用意した贈り物は、美濃焼きの湯呑み茶碗だった。お気に入りだったのが欠けてしまい、口を切っても危ないからと使用させるのを止めた。そんなことをポロッと言ったのを覚えていたのか、その湯呑みによく似たものを贈ってくれたのだ。
祖母はとても喜んでいたし、律もその心遣いが嬉しかった。今ではすっかりお気に入りのその湯呑み茶碗を使って緑茶をすする祖母の姿を見ると、あの日の千愛希を思い出した。
「これをくれた子は来ないのかねぇ」
祖母が度々そんなことを言うものだから、律も「今度連れてくるね」と言ったものの、そのままになってしまっていた。
「おばあちゃん元気?」
「うん。また猫が来てて、嬉しそうだよ」
「あれは野良じゃないと思うんだ」
「どうして?」
「人間に懐きすぎてる」
「確かに」
「それに、毛並みも綺麗だ」
「でも首輪も付いてないじゃん」
「うーん……どこから来たのかな……。野良だと病気も怖いから、病院連れてった方がいいかもだけど、飼い猫だったらそうもいかないしね」
「……うん」
いつの間にか、真剣に猫の話をしている千愛希に、律は思わずふっと笑ってしまった。
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