変化の理由

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「律?」 「うん。猫も待ってる」 「守屋家の猫じゃないのに」  千愛希も一緒になって笑う。ようやく穏やかな時間が流れ、お互いに胸がすっと楽になった。 「明日、何時に来られそう?」 「いつもご飯時じゃ悪いから、午後にしようかな」 「うん」 「14時頃」 「わかった。待ってる」  律が電話を切ると、どっと疲れが押し寄せた。日曜日だと思っていたのが明日になったのだ。明日はもう言わなきゃ。そう思うとまた赤面する。なんて忙しい体だ、と律は熱くなった頬を撫でた。  日曜日はダメで明日はいいってことは、俺に会いたくないわけじゃなかった。律はそう安堵することができた。まどかがいなくても千愛希が自宅に来るのであれば、わざわざ邪魔する可能性のある周を呼ぶ必要もない、と周に連絡するのは止めた。  ただ、まどかへの千愛希の反応は気になる。  まどかさんとなんかあったのかな? いや、なにかあったなら、まどかさんからも周からも連絡があるはずだ。単純に日曜日に予定があっただけか……と思い直す律。  明日は穏やかに猫と遊んで、祖母と共に過し、それから好きだと伝えればいい。千愛希が律のことを好きでなかったとしても、睦月とは付き合っていたのだ。『恋愛感情をもたれたら迷惑だからもう一緒にはいられない』まさかそんなことは言わないだろうと思えた。  自分ばかりが恋愛感情を知らずに取り残されるのが怖いと言った千愛希。その震えた体を抱きしめたあの日。もうあんな思いはさせなくてすむ。  たとえ恋愛感情をもっているのが自分だけだとしても、千愛希が安心できるよう支えになれる存在でいられたらそれでいい……。律はそんなふうにも思いながら、明日はなんて切り出そうかと悶々と考えることになった。
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