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「パソコン? どれどれ」
千愛希は嫌な顔1つせず、手元を覗き込んだ。その光景を見た律は、口を開いたまま息を止めた。
近過ぎる周と千愛希の距離。今まで気にしたことなどなかったのに、寄り添うその姿に次第に苛立ちが募る。
近付き過ぎだと周を注意しようと足を踏み出した瞬間、「あれ……周くん香水変えた?」と口を開いた千愛希。
くんっと匂いを嗅ぐように、鼻先を周に近付けた。
律は駆け出して2人を引き剥がしてしまいたかった。
「そうなんだよ。よく気付いたね、千愛希さん。これね、まどかさんからのクリスマスプレゼントなんだ」
嬉しそうに笑う周に、なんとか堪えた律。周の口からまどかの名前が出なければ、完全に我を失うところだった、と律は動悸にも似た胸の鼓動を苦痛に感じた。
「それ、今人気なんだって。新発売したのでね、凄くいい香りだったから。普段のあまねくんの匂いも好きなんだけど、仕事とプライベートと一緒だっていうから、分けてもいいかなって思ってさ」
「へぇ……いい匂い」
千愛希は大きく頷いて、ふわりと笑った。
周は一瞬瞼を上げたが、すぐにふいっと視線を逸らした。あまりにも美しい千愛希の姿に、周もなんだか落ち着かなかった。
今までは、真似をするほど自分の妻を好きでいてくれて、ファンとして同志だと思っていた。律の彼女というよりも、同じようにまどかの魅力を一緒に語れる相手。
まどかのことを凄く好きだと言ってくれた千愛希だからこそ、周は好感をもてたし信頼もしていた。
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