変化の理由

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 綺麗に見えるのと、好きなのは違う。絶対に。あんなにも美しく見えた千愛希の姿だが、異性として意識しているわけではないと自覚して周は心底安心した。  もしまどかさん以外の人のことが気になったりしたら……その相手が律の彼女だったら……なんて思うと背筋が凍るようだった。  そんなことを考えながら、周はふと千愛希の頬に目がいった。長い睫毛が1本抜けて付着していたのだ。 「千愛希さん、睫毛付いてるよ」 「え? 本当? どこ? こっち?」  左隣に座る周に視線を移した千愛希が、左手で頬に触れる。 「もう少し右。違う、もっと」  指先を伸ばした周。千愛希の頬に触れようとした瞬間、ガッと手首を強く掴まれた。ギリッと力を込められ、周は痛みに顔を歪めた。  顔を上げれば、目の前には律の顔。恐ろしいほど鋭い眼光を周に向け、見下ろしていた。  周はビクリと体を震わせ、千愛希も直ぐに律の表情に気付いて息を飲んだ。 『触るな』  そう目で訴えていた律。こんな律の顔は久しぶりに見た、と周は瞳を揺らす。  強ばった周の顔を見て、はっと我に返った律は「周……まどかさんの前でそれはまずいでしょ」と言った。 「え? あ、うん……。あぁ、そうだよね、うん」  パッと離された手首を押さえた周は、一瞬目を泳がせた。けれど、すぐに律の言葉を理解したのか「まどかさん、違うんだよー!」と立ち上がってまどかの元に駆けていった。 「なにがー? もう、なんでそんな顔してるの?」  そんなまどかの声が聞こえる中、今まで周が座っていた場所に腰を掛けた律。そっと手を伸ばして千愛希の頬に触れると、指先でなぞり「取れたよ」と微笑んだ。
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