変化の理由

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 撫でられた頬が熱くなった千愛希は「あ、ありがとっ」と一言だけ漏らして顔を背けた。さらっと触れられた頬。周に触れられることも嫌だとは感じなかった千愛希だが、律に触れられるのはどうにも緊張する。  それにあの律の顔。思い出しては顔が熱くなる。けれど直ぐに「まどかさんの前でそれはまずいでしょ」というセリフが頭を巡って千愛希はじっとパソコン画面を見たまま硬直した。  なんだ……そっか……。周くんが私に触ったりしたらまどかさんが嫉妬するから……。悲しむからか。まどかさんのことを悲しませるなってことなのね……。  そう解釈した千愛希。  律は別に私のことなんて好きじゃないし……大好きなまどかさんに触れたくても触れられない律は、少しでもまどかさんが悲しむ顔を見たくないんだろうな。  考えれば考えるほど納得した。 「ありがとうね。自分じゃ見えないから」  もう一度そう言って無理に笑顔を作った千愛希。その顔を見て、律は触れた指先を左手で握った。  戸惑ってる……? 俺が触れたから? 嫌だったとか……。  ざわっと全身の皮膚が疼くような感覚に捕らわれた。  でも、周が触れようとした時にはそんな顔しなかったのに……なんで?  律の中に疑問が募る。半年前には頬に触れるどころかこの体で目一杯千愛希を抱いたのに。酔っていたとはいえ、受け入れてくれたはずなのに。なんでたったこれだけのことでそんなに戸惑うのかと律は不安になった。  もしかして……もう俺の気持ちに気付いてて迷惑だと思ってるとか……?  友達はいいけど、触れられるは嫌だとか?  色んな憶測が頭に巡って嫌な汗が滲んだ。
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