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祖母は目を大きくさせると、「ああ、はいはい。ありがとうね。素敵な物をいただきまして」とその場で丁寧に頭を下げた。
「いえいえ、そんな」
千愛希は顔の前でぶんぶん手を振る。少し照れたような千愛希の表情に、律もそっと微笑む。そこにダダダっと勢いよく走ってきた妃茉莉がガバッと律の足に抱きついた。
律はすっと瞼を上げると、何も言わずに妃茉莉を抱き上げた。
「ひまちゃん、パパが来てくれて嬉しいねぇ」
祖母がそんなことを言うものだから、千愛希はひくっと頬をひきつらせた。律は軽く息をついて「おばあちゃん、妃茉莉は周の子だよ」と言った。
「ああ、そうだったね。あれ? おかしいね……あ、そうか、そうか。千愛希ちゃんがあっくんのお嫁さんだね」
祖母は納得したように頷く。今度は律がピクリと顔をひきつらせる。しかし、認知症の祖母に声を荒らげるわけにもいかず、ぐっと堪えると「おばあちゃん、周の奥さんはまどかさんだよ」と説明する。
「ああ、そうだね。いやだね、歳をとると色々忘れちゃって。ごめんね、千愛希ちゃん」
「いえいえ、気にしないで下さい」
「千愛希ちゃんはまだ結婚してないの?」
「はい、してないんです」
「今おいくつ?」
「32歳です」
「じゃあ、もうお嫁にいってもいいね」
祖母の言葉に寂しそうな表情を浮かべた千愛希。妃茉莉を抱きかかえたたままの律は、睦月の存在を思い出す。
あんな顔をさせないためにしっかり向き合おうと思ったのに。
『千愛希は俺の彼女だよ』
そう言おうとしたところで「早くいい人がみつかるといいね」と言った祖母。
千愛希は小さく頷いて「はい」と返事をした。
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