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律は目を丸くさせ、大きく瞳を揺らした。
いい人って何? 他で見つけるってこと? 俺は千愛希と付き合ってるはずなのに。結婚を考えるなら俺じゃないの……? それとも俺は、次の婚約者ができるまでのつなぎで……
そんなことを考え出して、律は軽く頭を振った。
違う、ダメだ。憶測なんかで進めたって。ちゃんと千愛希の気持ちを聞いて、ハッキリさせて、確信を得ないと。
曽根睦月とはもうなにもないって、俺に恋愛感情がなくたって、俺とはちゃんと付き合ってるんだって。
早く、2人きりに……
「おばあさん、庭の猫は知りませんか?」
律の考えなど知る由もない千愛希は、話を切り替えた。手には、いると思っていた猫のために持ってきたおもちゃ。ふわふわの綿がついた猫じゃらし。
簡単にしなるそれをパタパタと動かしながら千愛希は尋ねた。
「ああ、猫ならいるよ。今、ちょうどお散歩の時間だから、もうすぐ帰ってくるんじゃないかね」
「お散歩の時間……」
千愛希はぽかんと口を開けている。まるで、祖母が飼っている猫のようだと思ったからだ。ヤツは野良猫で自由奔放なはず。それを、祖母に行動パターンを知られているというのがなんとも奇妙で間抜けに思えた。
「行ってみようかね」
よいしょっと立ち上がった祖母は、膝を摩って歩き出した。小さな小さなその背の後ろをついて行く千愛希。
完全に2人きりの空間に誘うタイミングを逃した律は、モヤモヤとした気持ちを抱いたまま、2人の後を追った。
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