10346人が本棚に入れています
本棚に追加
周はしゃがんだまま顔を上げる。
「うん。謝る。謝るけどその前に俺、まどかさんにも謝らなきゃいけない」
「何を?」
「だから、千愛希さんに触ろうとしたこと……」
「ああ。あまねくんにしては珍しいね」
「それに俺……ちょっと千愛希さんのこと綺麗だって思った。まどかさんの夫、失格だ」
素直な周の言葉に、まどかはクスクスと笑う。普通なら自分にとって不利益な発言はしないはずなのに、周は何でも素直にまどかに報告する。そんなところが誠実で好きだとまどかは思う。
「わ、笑い事じゃないよ! だって、俺……まどかさん以外の女性を……」
「わかってるよ。大丈夫、気にしないで」
「気にしないでって……」
「女の私だって千愛希ちゃんは綺麗だと思うもん。仕方ないよ」
「それはっ」
「それにね、私は嬉しいんだよ」
「え……?」
「あまねくんほら、他の女の子に凄く冷たいでしょ? 私だけ特別扱いしてくれてるって伝わってくるし、とっても嬉しいことだけど時々相手が可哀想になることもあるから」
「え……だって、それは! 俺はまどかさん以外好きじゃないし、まどかさん以外は女性としてっ」
周はすっと立ち上がると、声を大にしてまどかに近付いた。
「あまねくん、私以外だって皆女性だよ。普通に恋愛もするし、可愛くなりたいって努力するし。もちろん私だけが可愛いって言ってくれるあまねくんのことも好きだけど、女の子に面と向かって魅力がないって言うあまねくんはあんまり好きじゃない。そんなふうに他人を落として私を持ち上げてくれても嬉しくないよ」
「まどかさん……」
「千愛希ちゃんのことはさ、律くんの大事な彼女だからあまねくんも大切にしたいんだよね?」
「え? あ……そうかも……」
「千愛希ちゃんは凄く綺麗でいい子だよ。とっても素敵な女性だと思う。だって、あの律くんが選んだ人だもん」
まどかは嬉しそうにふふっと笑う。それから手を伸ばして、周の頭をそっと撫でた。
最初のコメントを投稿しよう!