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千愛希は猫に視線を戻しておもちゃを振り上げた。それ目掛けて飛び跳ねた猫は、真っ直ぐ千愛希の元に飛んできた。
「わっ!」
驚いた千愛希はバランスを崩し、そのまま後方に倒れた。胸にはぴょこんと猫が乗り、律は慌てて妃茉莉を抱き上げる。
間一髪、妃茉莉がいた律の足の上にポスッと千愛希の後頭部がハマった。
床に頭を直撃すると固く目を瞑った千愛希だったが、いつまで経っても訪れない痛みに、そっと目を開いた。
目の前には、下から見ても整った律の顔。眉をひそめて「大丈夫?」と問いかける。
「あ、わわっ……ごめっ!」
かあぁぁぁっと、顔を赤くして起き上がろうとする千愛希だが、律はそっと肩を押さえ「いいよ、このままで」と言った。
「え……?」
暫し見つめ合う。千愛希は、律の瞳に吸い込まれそうになりながら、膝枕されているその現状が信じられなかった。
起きる気配のない妃茉莉を左腕に抱えたまま、右手で千愛希の髪をすくった。細く、しなやかな髪は、ツルツルとしていて律の指の間に入り込む。
「髪、綺麗だね」
「え!? あ……うん。忙しいながら、ちゃんとメンテナンスだけは行ってるから……」
千愛希の胸はうるさいくらいにバクバクと大きな音を立てる。
律の鼓動だって痛いほどに全身を叩きつけた。
お互いの心音がどちらのものかもわからない中、律はそっと身を屈めた。千愛希の頭上を通り越し、視線を追い抜き、丁寧に口紅をひいた唇に、口付けをした。
千愛希は大きく目を見開いた後、再びぎゅっと目を瞑った。手をどうしたらいいのかわからず、左手に猫の毛並み、右手に猫じゃらしの感触を得ながらそっと息を止めた。
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