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律は、ドクドクと血流が激しくなる全身をどうすることもできないまま、まして冷静でいられるはずもないまま本能で動いた。
思わず抱きしめたいと思った体は、予想外にも向こうからやってきた。決して甘えることのない千愛希が、自分の腿に頭を預けて視線を合わせたのだ。
猫とじゃれていた時の笑顔と、さっきまでの戸惑い。色んな表情に振り回されて、たどり着いた先は、単純に『千愛希に触れたい』だった。
酔って抱いたあの夜のことを千愛希は覚えていないと言った。だとするならば、千愛希にとっては初めての律とのキス。更に戸惑わせることになるのは当然のことだが、それでも律はこの衝動を抑えられなかった。
そっと唇を離すと、躊躇いがちに目を開いた千愛希がチラリと律を見る。けれど直ぐにパッと視線を逸らして、代わりに顔を紅潮させ左手の甲で唇を隠した。
ただ、嫌がる素振りはなくて律は安堵する。
「何で……キスするの……」
ポツリと千愛希が呟く。恥じらうその姿に、律は呼吸することを忘れてしまいそうになる。このまま2人だけの世界に閉じこもって、誰もいないところで何もかも放り出してこの時間を堪能したい。そんなふうに思った。
「千愛希が」
律がそう発した瞬間、「妃茉莉ー?」と周の声が近付いてきて、千愛希は慌てて体を起こし律との距離をとった。勢いよく離れた2人。律の腕の中には妃茉莉、千愛希の腕の中には猫という何とも不思議な構図の中、周がひょっこり顔を出した。
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