視線の先

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「なぁ千愛希。アプリの製作が終わったら、ちょっと仕事量減らす約束だったろ?」 「う、うん。私もそのつもりだったよ。まさかこんなにアプリの人気が出ちゃうなんて思ってなかったし……。続編の要望もあって、次のシナリオも考えなきゃなんだ」 「それはもう他の人に任せて、千愛希は管理だけにしたら?」 「そうするにしても引き継ぎもしなきゃいけないし、私の仕事量を全部押し付けたら皆がパンクしちゃうよ。子供ができたら引退も考えてるし、社長にだってそう言って」 「いい加減にしろよ! 俺との結婚の話が出た時に、家庭と仕事と両立していくって言ったよな? だから俺は、アプリ製作だって協力したし、その後のフォローだってした。でもこれじゃ仕事オンリーでとても家庭のことなんて考えられないだろ」  温厚な睦月が初めて声を荒げた瞬間だった。 「ご、ごめん……そんなに仕事のことについて真剣に考えてるなんて思ってなくて……」 「え? 真剣に考えてるなんて思ってなかった? ……ねぇ、千愛希にとって結婚ってなに? 真剣に考えるべきことじゃないの?」 「そ、そういう意味で言ったんじゃ……。ちゃんとするから! 仕事のことは量も減らして」 「それいつから言ってたっけ? 先月、先々月に結婚決めたわけじゃないよね? 1年近く期間があって、結婚に向けて少しずつ準備するから待っててって言ったの千愛希じゃん」 「うん……。わかってる。で、でもね! 私今の仕事が好きなの! ようやくやりたい仕事が見つかって、睦月のおかげもあってこんなに素敵な結果に繋がったんだよ!? 私も睦月も睡眠時間削ってようやく成果がでたものじゃん! そんなに易々と手放したくないっていうか……」 「なんだよ。結局仕事のことばっかじゃん。千愛希は俺との結婚と仕事とどっちが大事なの?」  そんな究極の選択を迫られた。
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