視線の先

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 ドラマに出てくる女性が泣きながら言うようなセリフだと思った。仕事は大事だ。もちろん結婚も。30歳になった千愛希の結婚は目の前だし、婚姻届さえ提出すれば晴れて夫婦だ。  今まで協力しながら一緒に仕事してたじゃん。会える時にプライベートで会って、職場も一緒だから寂しくもなかったでしょ? なんで今まで通りじゃだめなの? 結婚したら全部の生活を変えなきゃいけないの?  千愛希には理解できそうになかった。ここでユーザーの求めているものと違う展開に進めば、今プレイしているユーザーが一気に離れてしまうかもしれない。そうなったら2人の努力だって水の泡だ。  新たなユーザーは、ピーク時を超えることは決してないだろう。勝負をかけるなら今だ。最悪結婚はもう1年遅らせることもできるでしょ? 子供ができたらその時こそはもう母親としてって子供のことを考えるから。  そう思う千愛希の意見は睦月には理解できなかった。睦月は千愛希のことを本気で愛していたし、できれば仕事を辞めて家庭に入って欲しいと思っていた。  それでも仕事が好きな千愛希のために、続けてもいいと言ったのだ。その代わり、仕事はほどほどにして夫婦で過ごせる時間をもっと増やそうと提案した。  婚約が成立した時には千愛希も納得してくれたはずだった。それがこんな土壇場になってやっぱり仕事を優先したいだなんて、話が違う。そう睦月は頭を抱えた。 「もういいよ。俺が好きになったのは、仕事を頑張る千愛希だもんな。千愛希から仕事を奪おうとした俺が悪い。もう好きにするといいよ。結婚はなかったことにしよう」 「え!? ちょ、なにもそこまで」 「そこまでってなに? 俺はもう待つ気なんてないよ。1年近く待ったんだ。俺達、ただの仕事仲間でいた時の方が良好な関係を築けてた気がする」  睦月はそう言い残して、千愛希と別れることを選んだ。
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