初恋

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初恋

 律は、洗面所で歯を磨きながらじっと自分の顔を見つめていた。綺麗な曲線を描いた二重、瞼は狭く眉と瞳は近い位置に存在する。鼻筋はしゅっと真っ直ぐ通っていて、横顔はその鼻の高さに目がいくほど。薄い唇に白い肌。ほとんど体毛もない綺麗な腕を見て、きっと自分は男性ホルモンが少ないんだろうな、なんて思春期には思った。  どこから見ても中性的な顔立ち。元々食が細いことから「薄っぺらい」と揶揄されるほどのウエスト周り。それでいてひょろっと長身なものだから「モデルさんみたいね」なんて言われるのは昔から。 「律くんは美人だね」  1年以上も前にまどかに言われた言葉を思い出す。律は自分のこの容姿が嫌いだった。子供の頃から女の子みたいだと騒がれた。  幼稚園では既に女児達の取り合いに巻き込まれ、小学生になるころには異性から需要がある容姿であることに気付き始めていた。  人間の欲求、嫉妬はいくつの年でもあるものだ。それがどんなに幼くても。まだ恋愛もキスもセックスの意味も知らない子供でさえも、気付かない内に嫉妬心を抱くことはある。  そしてそれを向けられるのはいつも自分だと律は嫌気がさした。  女性には必要とされる。しかし反対に男性からは疎まれる。いつの時もそうだった。勉強もスポーツも難なくこなした律に勝てる男子はいなかった。嫉妬をしようとも律を超えられない。 「いい子ぶってんじゃねぇよ」  そう言って教科書を投げつけられたこともあった。けれど決まって律を庇う女子達が現れて、少年達を最低だと罵る。  ガキ大将に目をつけられれば、そのガキ大将が好意を持つ女児に「僕は嫌われてるみたいだ」なんて律が一言放つだけで、すっかり嫌われ者の悪者に仕立てあげられる。
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