初恋

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「女みたいな顔して、お前本当はついてないんじゃねぇの?」  中学に上がれば品のない悪餓鬼が、下衆な笑みを向け律を辱しめようとしたこともあった。数人で律を囲み、暴行を加えようとしたことも。  律には昔から直感が働いた。嫌な空気を読み取り、攻撃してきそうな相手をなんとなく察する力があった。  だからそんな時は、決まってなにか嫌な予感を抱くのだ。  前もって担任、学年主任の行動パターンを読み、決して危険な場所に1人では近付かない。 「おい、脱がせろよ」  面白がって羽交い締めにした律の学ランに手をかけた少年。そんなところに「お前達! なにやってんだ!」と駆けつける学年主任。 「僕の体が女性かどうか脱がせて調べようと思ったみたいです」  律は淡々とこう答えた。青冷めた少年達は、生活指導室でこっぴどく怒られる。成績優秀な律を疑う教師などいない。  律のせいで怒られたと逆恨みする少年達。次こそ貶めてやろうと律を呼び出した。けれど、現れた律の後ろには数十人のヤンキー。 「え……?」  学区内では有名な素行の悪い奴らばかりだった。律はこういった人間も好きじゃない。けれど、不良少女達からももちろん人気があった。  どうしても律に気に入られたい少女達は、必死に仲間を使って律を助けようとする。 「ありがとうございます。あなた達のおかげで助かりました」  決して微笑みはしなかったが、お礼を言うことだけは忘れなかった。ぽーっと恍惚の表情を浮かべる少女達。不良少年達はそれが面白くなかった。  俺達がやっちまおうぜなんて言ってるところに「ありがとうございます。彼女達がとても頼りになる方々がいるとおっしゃっていたので。弱い者には手を出さない素敵なお友達だと聞きました」なんて律が言うものだから、彼らは律に手を出せなかった。
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