最恐の男

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「では、話はそれだけなので」 「わかった。早々と返事をくれてありがとうな。おかげで俺も次の行動に移せる」 「いえ。私もズルズルそのままにするのは本意ではなかったので。それではこれで失礼します」  退室する雰囲気を出す千愛希。睦月は、未だに千愛希が手に新品のストッキングが巻き付けられていた台紙と、脱いだストッキングを持っていることに気付いた。  告白の返事を聞けると舞い上がったために、二の次にしていた存在。しかし、今となっては目的はそちらに集中する。 「ああ。気を付けて帰れよ」 「はい。ありがとうございました」  軽く会釈をして背を向けた千愛希。事務所がすぐ近くだったこともあり、ポケットに入る財布と社員証、それから大崎から預かった封筒しか持って来なかったのだ。  外出時には持ち歩くはずのバッグを持っていないために手に持っていくか、丸めてポケットに押し込むかしかなかった。 「おい、千愛希。それ持って事務所に行くのか?」 「あぁ……。向こうで処分しますよ」 「いいよ。バッグも持ってきてないんだろ。どうせ午後は清掃員も入るからそのままそこのゴミ箱に捨てていけ」 「いえ、自分のものですし……」 「でもゴミだろ?」  俺にとってはお宝だがな。早く捨てていけばいい。いらないものなら持ち帰ることなんかないだろ。すぐに捨ててしまえばいい。  千愛希がそれを手放すのを今か今かと喉を鳴らして待ち構える。ゴミ箱とストッキングを交互に見ながら、なんてことのないように振る舞うのは容易ではなかった。
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