最恐の男

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 千愛希のことは何度も家に招き入れた。仕事が忙しくて掃除ができていない時だってあった。千愛希は、その度に文句を言いながら片付けてくれたものだ。  反対に千愛希の家はいつだって綺麗に片付いていた。あまり生活感がなく、パソコン類の機械ばかりがびっしり並んだ部屋もある。  決して女性的ではない部屋になぜかわくわくと好奇心をくすぐられたのは、睦月もその類が好きだからだろう。  千愛希の一言でそんな過去を思い出し、懐かしさで心が震える。同時にやっぱりこのまま終わらせたくはないと欲が出た。 「だからやっぱり自分で片付けますよ」  睦月を横切った千愛希の手をガシッと掴んだ睦月。千愛希は驚いて、少し背の高いその顔を見つめた。 「いいって。最後にそれくらいさせてよ」  どうしてもそのストッキングを手に入れたい睦月は、必死で言葉を探す。なるべく不自然に思われないよう取り繕いながら、千愛希を誘導させた。  千愛希も睦月の最後という言葉にピクリと反応した。本当にこれで私達の関係は終息を迎えるんだ。そう思ったら、頑なに拒むのも気が引けた。  よりを戻すことを拒否したところで、上司と部下の関係がなくなることはない。今後も良好な関係を築いていくにはあからさまな拒否は逆効果な気がした。 「まあ……それで曽根さんが納得するなら……って、そもそもこんなことで口論するのもおかしいんですが」 「そうだな。でも、社長秘書のストッキングを破った挙句、ゴミを持って帰らせたなんてそれはそれで俺の面子が立たないとは思わないか?」 「証拠隠滅するつもりですか」  千愛希の物言いに今度は睦月が笑った。
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