初恋

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 周は脅迫されているとわかっていても、まどかと出会えたことが嬉しかった。同じ静岡市内在住だとわかっていても10年間出会うことはなかった。きっと今後も出会うことはない。30歳を超えたまどかは既に結婚していてもおかしくないし……そんなふうに考えていたところに未婚のまどかと出会えたのだから、天にも昇るような気持ちだった。  そんな周の様子を見て、律は肩を揺らして笑った。全てが律の計算通りだったから。  あんなにも恋い焦がれて、一時は勉強に集中できないほど夢中になった存在。いつもは冷たくあしらっていても、可愛い弟のために夢くらい見させてやりたいと思っていた律。  ただ、誤算だったのは周がそれだけでは満足できず、まどかを雅臣から奪いたいと思ってしまったことだった。  律の当初の予定では、雅臣の不正を暴き民事なら示談、法を犯しているとしたらまどかが巻き込まれる前にあっさり別れさせてしまうつもりだった。  別れた後は、自由にすればいい。犯罪者の彼氏に騙されたと傷付きながらも前を向いて歩き出せばいい。犯罪に巻き込まれるよりはいくらもマシでしょ。  そう思っていたのに、周は諦めてはくれなかった。後になってそりゃそうだよな、と納得した律。もしもまどかが周に対して本気になるようなことがあるとすれば、その時は協力してやろうか。その程度に考えていた。  律には周がそこまでまどかに執着する理由がわからなかった。実際に接し、触れ合って人柄を知って惚れるならまだしも、画面越しでなぜ恋愛感情を抱くことができるのか不思議でならなかった。  出会った後も、理想と現実に差が生じてもおかしくはないのに、周はガッカリするどころかどんどんのめり込んでいく。
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