最恐の男

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 冬の空は、夕方になればすぐに闇に包まれる。ゆっくりと夏を終えてきた人々は時間を錯覚するほど。睦月が真面目にパソコンに向かっている内に、背後のガラスの向こう側がずんっと暗くなっていった。  集中していると1日が終わるのも早いものだな、と睦月は右手の親指と人差し指で目頭をぐっと押さえる。長時間画面を見つめていたことで、コンタクトレンズが入った目が重く、霞むようだった。  些か目が疲れた……。少し休むか。  そう思っているところに、社員達はソワソワとしだす。そろそろ終業時間を知らせる社員の動きに休み明けからやる気が出ないのは皆同じだな、と口元を緩めた。 「終わった者から帰っていいぞー。残業なし、定時で」  睦月は目の前の社員達に向かってそう大声で伝えた。去年までは新しいアプリ配信のせいで全員が残業を強いられたのだ。  ようやく落ち着き始めている今、帰れる時には定時で帰る。そう決め事をしているのはどこの部署も同じである。 「副社長お疲れ様です。今日の分は片付いたので本日は失礼します」  何人かの社員が挨拶をして上がっていった。睦月が最後まで事務所に残るのはいつものことだ。他の社員達よりも現場の人間としても副社長としても膨大な仕事があるのだ。  本来は、千愛希とだってあんなふうにやり取りをしている暇などない。だから彼は、千愛希の背中を見送った後、その愛しい笑顔を思い出して悦に浸りたい気持ちをぐっと堪えて何時間も集中して仕事に向き合わなければならなかった。
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