初恋

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 結局、相思相愛に至った2人が晴れて結ばれるよう協力した律。雅臣は勾留され、雅臣の父が経営していた税理士事務所も倒産した。  その後、雅臣が脱税と保険詐欺の件に関して全く知らずに協力させられていたことが証明され、釈放されたのだが、その間にまどかを襲ったりストーカー行為に走ったりといくつかの事件も起こった。  律にはこの出来事がつい先日のように鮮明に思い出せた。  口をゆすいで、歯ブラシを元の位置に戻す。リビングに戻るとまどかと目が合う。 「あ、律くんコーヒー飲む?」 「いえ。今ちょうど歯磨きを済ませたところなので。食事、ご馳走さまでした」 「うん。久しぶりにダリアさんと一緒に作ったから楽しくて作りすぎちゃった。よかったら明日の朝ごはんに食べていってね」 「はい。おやすみなさい」  ふっと頬を緩めて言えば、まどかは満面の笑みを向け「おやすみ。またね」と言った。  律は、そのままリビングを出て自室に向かう。まどかの笑みが頭の中に残っていた。  あの頃には、あの人に特別な感情を抱くことがあるなんて想像したこともなかったと律は思う。  初めて直接まどかと対面したのは、周がまどかとともに結婚の挨拶をしにきた時だった。  律が2人をくっつけたとは知るよしもない周とまどか。上手いこと律の掌の上で転がされ、必然の掛け合わせを偶然が生んだ運命の相手だと信じて疑わなかった2人。  2人は実に幸せそうだった。周があんなにも嬉しそうな顔を見せるのは子供の時以来かもな、と律も心なしか嬉しくなった。  そんな周を見ていたら、2人を引き合わせてよかったとさえ思えた。けれど、何度かまどかが実家に訪れ、律と会う内になんとなく律の心に変化が起こる。
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