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「今回お越しいただいたのは、諸々のお話を聞いていただいた上で、誓約書のサインをお願いしたいと思ったのです」
律はそう言って、ビジネスバッグの中からA4サイズのクリアファイルを取り出した。その中にはビッシリと文章が羅列された用紙が入っていた。
「……誓約書?」
「はい。申し訳ないのですが、ここからは念のため録音させていただいてもよろしいですか?」
律は胸ポケットからボイスレコーダーを取り出した。睦月は、千愛希に盗聴器を仕掛けていたくらいだからとっくに今までの会話も勝手に録音されているものだと思っていた。こうして許可を取ろうとする行為に驚いて目を見開いた。
その表情を見て律は苦笑する。睦月の考えていることは手に取るようにわかった。
「そんな顔をなさらないで下さい。これが本来の正しいやり方ですので。千愛希さんの盗聴器に至っては、今回が初めてですし今後このようなことでもなければ二度とするつもりもありません。録音を開始してもよろしいですか?」
「え、ええ……かまいません」
「ありがとうございます。この音声は、双方に取っての証拠となります。もちろん曽根さんにも不利益のないよう会話を続けさせていただくつもりです」
「はい……」
睦月の返事を待ってから、律は録音ボタンを押した。それから「まずは誓約書に目を通していただけますか」と言いながら取り出した用紙を睦月側に向けて差し出した。
睦月が文章を読み始めると、千愛希に対して嫌がらせ行為にあたる一切の事柄についての禁止命令が書かれていた。
法に触れる盗聴、盗撮、ハラスメント類に関してまで全て。
睦月は生きた心地がしないまま、その内容の全てに目を通した。おずおずと顔を上げた睦月の目を捕らえた律の表情は至って穏やかだった。確実に自分が優位にいる余裕もあったのだ。
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