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「あの……私はけっこうですが、守屋さんにとってこの誓約書はメリットのあるものなのでしょうか」
睦月はもう一度誓約書に視線を落としてから律の顔を見た。律はふっと微笑むと「もちろんありますよ」と頷く。
「曽根さんは土浦千愛希さんの着替えの映像を不正に入手し、私用のためにパソコンに保存した。また、言葉巧みに使用済みのストッキングを回収し、本人の許可なしに自宅へ持ち帰った。間違いありませんか?」
「……はい」
実際に言葉にされると、辱めを受けているようだった。客観的になるとなぜこうも惨めな気分になるのだろうかと睦月は肩を落とす。
「これは立派な犯罪行為です」
「はい」
「ですが、私は千愛希さんの許可なしに盗聴器を仕掛け、曽根さんのパソコンに侵入しました。また、不正に入手された動画と知っていながら勝手にアップロードし、削除もした。これらも犯罪行為なのです」
「あ……」
睦月はようやく律の言いたいことが理解できた。睦月を警察に突き出せば、律の行為も必然的に公になる。弁護士である律が法を侵したとなれば懲戒解雇にも繋がりかねない。また、睦月同様警察沙汰になる可能性もあるのだ。
ここに警察を介入させることは、双方にとってデメリットしかなかった。
「理解していただけましたか? 今回、千愛希さんの依頼があって私が彼女の許可のもと行動していたのなら、音声を録音することは罪になりません。しかし、ハッキング……いえ、この場合はクラッキングですね。それはどう足掻いても逃れようのない犯罪なのです」
「そうですよね……」
「はい。つまり、私達はお互いに弱味を握り合っている状態なのです」
苦笑した律に、睦月はようやく肩の力が抜けた気がした。
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