初恋

7/19
前へ
/390ページ
次へ
 加えて、子供の頃から優しかった祖母のことも大事に思ってくれたまどか。介護施設で働いていることもあり、高齢者とコミュニケーションをとることには長けていた。  祖母も最近では見ないような笑顔を見せ、認知症が進んでいて家族の名前も間違えるほどだったのにも関わらず「まどかちゃん」と嬉しそうに名前を呼んでいた。  そんなところにも驚いた。失禁してしまった祖母の衣類を素手で片付けたり、低血糖で倒れた祖母の口腔内に指を突っ込んでブドウ糖を飲ませたり。他の女性には見られなかった行動は尽く律を驚愕させた。  他人のためにこんなに行動力をみせる女性を律は知らなかった。 「美人過ぎる介護士」と持て囃されて、周からは愛されて、本人はとりわけ頭がいいわけでもなく、特別な職業についているわけでもないのにチートな人生だなとすら思っていたのに。  想像していた人物とは全く異なった。中でも律が驚いたのは、ほんの出来心でまどかを試した時のこと。奏が「どうせあの女もうちの財産目的なんだよ」なんて言ったものだから、律はまどかに自分に乗り換えないかと提案したことがあった。  今まで出会ってきた女性なら、律の誘いを断る者などいなかった。周に好意を抱いていても、周にその気がないと知ればあわよくば律を……なんて考える女性もいた。  律は長男でありゆくゆくは父の事務所を継ぐ形になる。弁護士である律が自分の事務所を構えれば、今以上の収入が得られる。それでなくとも現に周よりも収入が高いのだ。  周との年の差を気にしていたまどか。律となら3つ違いで、収入も上。それでいて容姿の良さはほとんど差はないのだから一般的に見たら律の方が好条件のはずだった。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10261人が本棚に入れています
本棚に追加